昨日はまったくもって疲れた。いろんな事情で人が少なくて、たった3人の看護婦でオペをしてその前後を整えるというのは、ほんとに大変だった。

3件のオペのうちの一件が、あの院長の知り合いのお偉いさんだった。
院長をはじめ、麻酔科の先生までもがぴりぴりしているのが感じられた。
ヘルニアのオペだったので、腰椎麻酔をすることになった。
腰から麻酔薬を注射するために、
”はい、では、私のほうを向いて横向きになってください。”と言うと彼は何故だか微動だにしない。
もう1度同じことを言った。
”狭いベッドですけど私のほうを向いて横になってください。大丈夫です。支えていますから。”
しばらく沈黙したあと、彼が言った言葉。

”私がかね?”

他にだりがいるんじゃいっ!
彼なりに精一杯威厳をこめて言ったんだろう。
おまえは俺に命令をするのか、俺に動けと言うのか、と言うニュアンスが感じ取れる語調だった。

”そうです。”と私は言った。
おろおろしたドクターが、”じゃ、僕が動かしましょうか?お手伝いしましょう。”と言うと、彼はすんなり私の方を向いて横になった。

まったく・・・。できんじゃねーーか、はじめからやれよ。いちいち威張るなっちゅうの。

そう思いつつも私は横向きになった彼の身体を両手で支えて麻酔に備えたのだが、何と麻酔の注射をする直前に、私の腰に両手で抱きついて来たのだ。
なんだあーー?今度はセクハラかあ?どんなにあんたが偉い人でも絶対許さないぞ、と彼の顏をきっと見た。

そして、はっとした。額に汗をにじませ恐怖に奮えていた彼の顏を見て。
彼は今まで腰椎麻酔をしたどの患者さんよりも不安な表情をしていた。それは支えている私の角度からしか見えない。

私はぎゅっと彼を支えた。手もしっかり握った。
”大丈夫ですよ。すぐに終わります。今、消毒をするので少し冷たいです。はい、これから針を刺します。そうです。じっとしていてください。はい、今薬を注入しています。終わりました、針を抜きます。おしまいです。お疲れさまでした。”

腰椎麻酔が終わってあお向けになる。みんなに顏が見える態勢になった途端に、彼は元通り口をへの字にして、あの威張った表情になった。

それからオペが終わって
病室で、痛みの有無を聞きに行ったときに、
”まだ痛くはないぞ。ご苦労。下がってよし。”と彼は言った。
おまえなあ・・・・。ご苦労とか、下がってよしってなあ・・・。
と思ったが、一礼して部屋を出て行こうとしたときに、
”助かったよ。”という彼の声に振り返ってしまった。

”怖いのが薄らいだ。礼を言う。またどっか悪くなったら、この病院を使ってやってもいいと思った。そのときも今日みたいにしてくれ。”

はい、もちろんですよ。私たちは、いつどんな患者さんのときでも襟を正して真剣にやっていますから。
と、また部屋を出ようとすると
”待ちなさい。”と言われる。何だよ。(−−;)

”名前を言いたまえ。”
今はオペ着だから名札をつけていないが、オペのオリエンテーションのときにも名乗ったし、部屋を案内するときも名乗ったろうが。
私たち看護婦にとって、名前を聞かれることは、時々恐怖でもあると同僚は言う。あとから名指しでクレイムを付けられるからだ。
それを知っていて、わざと脅しで使うお偉い患者さんも少なくはない。

私は、彼の物真似をして、
”私のかね?えっへん。”と言った。
私は人の特徴を短時間に捉えての物真似が得意である。(笑)

あっけにとられた後、彼は大笑いした。
調子に乗って、”○○かおると言うんだよ。覚えておきたまえ。”と続けた。
笑うと痛いらしい。
”いててて!わかった。覚えておくよ。わはははは!”

そして、驚いたことに、彼は、自分の名前を名乗った。
”俺は。。。いや、私は○○○○と言う。よろしくお願いします。”と。
名前知らないでオペするわけないじゃん、とおかしかったが、
”改めてよろしくお願いします。m(__)m ”と私も言った。

よろいを脱いだような人間の笑顔が私は大好き。この先、うまくやっていけそうな気がした。

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